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宇宙物理学

KEK理論宇宙物理グループでは、原子核・素粒子・重力・時空に関する基礎理論に基づいて新たな天体現象や宇宙進化の謎を解明する研究を行っています。最先端の基礎理論を宇宙現象を通して検証し、さらに未発見の宇宙現象を予言することが目標です。

高エネルギー天体物理

 

近年,高エネルギー素粒子を用いた天体観測は,目覚ましい発展をしています.日々,新しい結果が報告されていますが,そこから描かれる宇宙像は,宇宙は膨張して冷えていく,という単純なものではなく,非常に高エネルギーの天体現象が現在でもあらゆるところで起こっている,という驚くべきものでした.地上の加速器,例えばLHCで実現できる1000万倍以上のエネルギーを持つ粒子や,J-PARCの1038倍もの光度を持つ高エネルギー天体の存在が明らかになっています.理論と観測が両輪となって,これらの天体の理解は大きく進みましたが,同時に新しい謎も生まれています.高エネルギー天体物理は,今まさに発展しているアクティブな分野なのです.

多くの高エネルギー天体現象は,起源がいまだ定かではありませんが,ブラックホールや中性子星といった非常に強い重力を持つ高密度天体が中心的な役割を果たしていると考えられています.これらの高密度天体がまさに宇宙の加速器として働き,ガンマ線バースト,活動銀河核,パルサーといった高エネルギー天体現象を引き起こしているのです.最近の研究によって,多くの高エネルギー天体でほぼ普遍的に,中心の高密度天体から超高速のアウトフローが放出され,それらが衝撃波をおこすことで粒子加速が起こり,高エネルギー素粒子が生み出されることが分かってきました.このことは,背後に共通の物理が存在することを示唆しています.

フェルミ加速しかし,どのようにして超高速のアウトフローが放出されるのかよく分かっていません.ブラックホールや中性子星のまわりの現象(たとえば磁場を介してブラックホールからエネルギーを引き抜く Blandford-Znajek過程など)を理解するには,一般相対論だけでなく量子力学,電磁気学,統計力学などさまざまな物理を駆使する必要があります.また,粒子加速のプロセスもあまりよく分かっていません.フェルミ加速と呼ばれるプロセスが最も有力ですが,現時点では,加速される粒子数といった基本的な量すら計算できません.これら高エネルギー天体現象の起源や進化を明らかにすることはそれ自体非常に興味深いテーマです.

高エネルギー天体物理は今まさに発展している分野ですが,数年のうちに文字通り新しい視点が手に入ることで,さらなるブレークスルーが起こると期待されています.というのも,これまでの光子による天体観測だけでなく,高エネルギー宇宙線やニュートリノ,さらには重力波を用いた多粒子天文学が近々実現するからです.実際,ごく最近,高エネルギーニュートリノが発見され,その起源が活動銀河核かガンマ線バーストか,それともダークマターかを議論できるようになってきました.また,ブラックホールや中性子星は重力波源の有力な候補です.重力波は統一理論の最後の難関である重力相互作用の媒介ボゾンであり,核力における中間子,電弱力における光子,W,Zボゾンのように重力の謎を明らかにしてくれる可能性もあります.重力理論を検証するためには,ブラックホール摂動論などの理論的整備が不可欠です.つまり,多粒子天文学の理論的基礎を構築することも今後の重要な課題の一つです.

一方で,高エネルギー天体物理を別の研究に応用しようという動きも出てきています.一つには,高エネルギー天体現象を用いた宇宙論です.高エネルギー天体はしばしば異常に明るいため,非常に遠方でも観測できます.それゆえ,最遠方の宇宙,特にダークエージと呼ばれる宇宙論で最も謎の多い時代の一つを探るために,高エネルギー天体は最適な道具なのです.ダークエージにおけるダークエネルギーの性質や,宇宙最初の星や銀河の起源を明らかにする研究が始まりつつあります.

また,高エネルギー天体物理は,しばしば地上では実現不可能な物理状態を扱うので,物理学に新しい領域を開拓する役割も担います.古くは湯川秀樹博士の予言したπ中間子が宇宙線の中に発見されました.これを超えるような新しい領域が,最近の目覚ましい発展のもとで生まれるかもしれません.特に,実験では作り出せないような高エネルギー天体現象を用いて,標準理論を超えるNew Physicsを明らかにするというチャレンジングな領域がありえます.この方向性はまだまだ発展途上ですが,大きなポテンシャルを秘めているといえます.

宇宙論

宇宙の膨張速度と宇宙時間近年、宇宙観測の進展は目覚ましく、宇宙のより広い領域の構造や宇宙初期の進化について詳細な情報が得られるようになりました。中でも、COBE(1989-1993)およびそれに続く BoomeRang(1999-)、WMAP(2002-)など、専用人工衛星や気球を用いたCMB(宇宙マイクロ波背景放射)の観測は、一様等方な熱い膨張宇宙モデルの正しさを証明すると共に、この熱い膨張宇宙の起源を説明するインフレーション宇宙モデルの予言を確認するに至りました。インフレーション宇宙モデルは、宇宙が真空のエネルギーにより誕生直後に加速的な膨張をし、加速が終了すると真空のエネルギーから物質が生まれ、減速膨張する熱い宇宙へと移行したとする宇宙進化のシナリオです。非常に興味深いことは、この理論はインフレーション時期での真空のエネルギーの量子ゆらぎから現在の銀河が生まれ、その分布が決定されたとする点です。この理論では、このゆらぎがCMBにどのようなゆらぎを生み出すかを予言しており、その予言の一部が観測により確認されたのです。

インフレーションは宇宙誕生直後に起きる現象ですから、その原因や詳細を解明するには、重力を含む統一理論に基づいてモデルをつくる必要があります。このような統一理論の候補として有力なものは、超弦理論・M理論に基づくものですが、現在、これらの理論は時空がミクロなスケールで10次元ないし11次元であるとして作られています。このため、これらの理論では4次元以外の余分な空間次元(余剰次元)が観測されない理由を説明しなければなりません。この余剰次元コンパクト化問題は最近盛んに研究されていますが、自然で安定な解を見いだすことが困難である、低エネルギーの法則が少しずつ異なった解が無限個存在し理論が予言能力を持たないなど様々な問題が明らかになっています。とりわけ,時空の4次元性の起源と宇宙誕生時のインフレーションを同時に自然に説明するモデルはまだ作られていません。これらの問題を解決したうえで、整合的な統一理論に基づいてインフレーションモデルを構築し、その予言を今後予定されている衛星をもちいたCMB偏極観測や重力波観測で検証することは、これからの宇宙論の最大の課題です。

近年の宇宙観測ではさらに、予想もしなかった新たな発見も相次いでいます。特に、現在の宇宙膨張が加速を始めているという観測結果は、衝撃的なものでした。この結果は、最初、Ia型超新星を用いて宇宙の膨張速度の距離依存性を測定することにより発見されましたが、その後、CMBの観測(WMAP, BoomeRang3)や銀河の大域的な分布観測(SDSS, 2dF)など異なった観測とも整合的であることが示されました。この加速膨張を生み出すエネルギーはダークエネルギーと呼ばれ、現在宇宙の総エネルギーの75%程度を占めていることが分かっていますが、その実体はダークマターと共に不明です。ただし、現在の素粒子理論の中に有力な候補が存在するダークマターと異なり、ダークエネルギーを説明するには重力源としての真空のエネルギーを非常に精密に決定できる理論が必要ですが、そのような理論は未だ作られていません。このため、この問題を現在、基礎理論に基づいて直ちに研究することはできず、基礎理論研究への今後の大きな課題となっています。

ブラックホール

ブラックホールは,いまでは銀河内のX線・γ線天体や活動的銀河中心核など様々なスケールの高エネルギー天体現象において中心的な役割を果たしていると考えられています。しかし、これらの現象においてブラックホールが具体的にどのような役割を果たしているかはよくわかっていません。その理由の一つは、やはりブラックホールが時空の大きなひずみを伴う一般相対論に特有の実体あるいは現象であることにあります。特に回転しているブラックホールでは、負のエネルギー状態が許されるエルゴ領域が存在するため、ブラックホールからエネルギーを取り出すPenrose過程など不思議な現象が起きるようになります。現実の天体現象では、さらに降着円盤などの物質や強い磁場との相互作用が重要となり、ブラックホール近傍でどのような現象が起きるのか理論的に予想するのが非常に困難となります。特に、高エネルギー天体現象を引き起こす超高速のジェットがどのようにして生み出されるのかは、現在の高エネルギー天体物理学の最大の謎です。

ブラックホールは、物理学の基本的な問題とも深いつながりがあります。例えば、ブラックホール解は面積、質量、角運動量、電荷などのパラメーターにより特徴づけられますが、これらのパラメーターは独立でなく、その変化は熱力学の第1法則と類似の関係式を満たしますことがわかります(Bekenstein関係式)。この対応では、面積がエントロピーに、質量がエネルギーに、ブラックホール表面での重力加速度が温度に対応します。この対応が偶然的なものでなく、より深い意味を持つことを示したが S.W. Hawkingです。彼は、1974年に発表した論文で、量子効果によりブラックホールから一定温度の熱放射が放出され、しかもその温度がブラックホールの表面重力加速度に比例することを示したのです。この発見はブラックホールが表面積/4Lpl2(LplはPlanck長)の値のエントロピーを実際にもつことを示唆しています。通常の統計物理学では、エントロピーは微視的な状態数を表すと解釈できますから、このことは、さらにブラックホールがLplを単位とするような微視的な自由度をもち、ブラックホールエントロピーがその状態数となっていることを示唆しています。また、このような微視的な自由度は、時空構造の量子的ゆらぎと対応していると予想されるので、ブラックホールエントロピーの微視的起源を探す研究は、重力の量子論についての情報をもたらすことが期待されます。近年,この期待に応える成果も得られています。特に、超弦理論において、双対性やブレインのアイデアを用いて、いくつかの超対称ブラックホールについてそのエントロピーの微視的導出に成功しています。この結果は、超弦理論が重力の量子効果を正しく記述していることを示しています。ただし、ブラックホールと量子重力の関係についてはまだ多くの謎が残されています。特に、ブラックホールの蒸発を記述することのできる基礎理論は存在しませんし、それに付随した情報パラドクスも解決されていません。これらの問題を解決するには、摂動論的な枠組みを超えた量子重力理論を構築することが必要となります。

近年、高次元統一理論に注目が集まる中、高次元理論でもブラックホールについての研究が盛んになり、次々の興味深い新しい結果が得られています。上で述べたブラックホール熱力学の問題もその一つですが、古典論でも様々な興味深い発見が続いています。特に、5次元において漸近的に平坦でホライズンが球面ではなくS2xS1という位相をもつ正則な真空回転ブラックホール解(ブラックリング解)の発見は驚きを持って迎えられました。この発見を契機として、様々な5次元ブラックリング解が真空重力理論や超重力理論において発見され、その多くでは,4次元(Einstein-Maxwell)理論で成り立ったブラックホールの一意性定理、すなわち無限遠からみた質量、角運動量並びに電荷が与えられると正則なブラックホール解が一意的に決まるという定理が成り立たないことが示されました。また、空間が1次元方向だけコンパクト化された時空でのブラックホール解の研究も数値的に行われ、無限に多様な解が存在することが明らかになっています。このように、5次元以上の時空における重力理論は豊かな構造をもっていますが、その全貌はまだ霧の中です。また、これらの構造の安定性についてもほとんど分かっていません。これら高次元時空のもつ豊かな構造とその安定性を解明することは、数理的にも非常に興味深い課題ですが、高次元統一理論における余剰次元コンパクト化の問題など高次元宇宙論の研究にとっても貴重な情報をもたらすと期待されます。


最終更新日:2015/04/14