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素粒子現象論

標準模型とNew Physicsの可能性

現在の素粒子理論には標準模型と呼ばれる理論が存在します。これはSU(3)×SU(2)×U(1)というゲージ群に基づくゲージ場の理論であり、構成粒子としてフェルミオンであるクォーク、レプトンとボソンであるヒッグス粒子を含むものです。この模型は現在のあらゆる実験と無矛盾であることが確かめられており、現在、我々が持つ最良の素粒子理論と言えます。しかしながら、標準模型にはさまざまな未解決の理論的な問題が存在するため、素粒子の最終理論であるとは考えられていません。そのため、現在の実験で到達可能なエネルギースケールより高いスケールには、標準模型に代わるNew Physicsが存在すると信じられています。

標準模型のスケール

問題の一つに、標準模型の真空にまつわるものがあります。標準模型の真空はヒッグス場のポテンシャル最低点によって定まります。そこでは、ヒッグス場が真空期待値を持ち、SU(2)×U(1)ゲージ群に基づく電弱対称性が破れ、ウイークボソンやクォーク、レプトンが質量を獲得します。このため、標準模型のスケールはヒッグス場の真空期待値、あるいはウィークボソンの質量のスケールによって特徴付けられ、100GeV程度であることが実験により確かめられています。この大きさは現在の高エネルギー実験のエネルギーのほぼ上限値に近いものです。

ゲージ階層性の問題

ところで、我々は標準模型のスケール以外に特徴的なスケールとしてプランクスケールというものを知っています。これは、非常に弱い重力相互作用が、電弱相互作用や強い相互作用とほぼ同じ強さになると考えられるスケールであり、実に標準模型のスケールの17桁高いスケールです。標準模型には重力が含まれていませんが、プランクスケールほどの高エネルギーでは、標準模型と重力相互作用をともに無矛盾に記述する量子論が存在すると期待するのは自然なことかもしれません。すると、この二つのスケールになぜこれほどの開きがあるのかという問題が生じます。これはゲージ階層性問題と呼ばれています。

真空の不安定性

そもそも標準模型自身では、なぜヒッグス場が真空期待値を持つのか、言い換えると、電弱対称性の破れの起源についての説明を与えることができません。都合のよいヒッグス場のポテンシャルをはじめから理論に導入するためです。さらに、ヒッグスポテンシャルについて、それが定める真空について、ゲージ階層性問題とも関連する重大な問題が存在します。真空の不安定性の問題がそれです。標準模型において、量子効果を考慮に入れると、ヒッグス場のポテンシャルがさらに高いエネルギースケールに存在するであろうNew Physicsのスケールに強く依存するすることが知られています。この性質のために、標準模型のスケールは、New Physicsスケールとそれほど変わらないことが自然と考えられます。もし、New Physicsスケールが標準模型のスケールより遥かに高いならば(たとえば、上で述べたようなプランクスケール)、非常なパラメータ微調整の結果として標準模型のスケールを実現しなけらばならないことが知られいます。つまり、標準模型の真空は量子効果に対して不安定なのです。多くの専門家の間で、この問題を解くNew Physicsが存在であろうことが期待されています。

超対称性

代表的なNew Physicsとしては、超対称性が有力であると考えられています。超対称性という特殊な対称性は、スカラーポテンシャルの量子効果を打ち消す働きを持つため、真空の安定性を保証するからです。ところで現在、超対称性の証拠は一つも観測されていないために、低エネルギーで超対称性は破れていなければならないことがわかっています。この破れのスケールが及ぼすヒッグスポテンシャルへの量子補正の影響から、超対称性の破れのスケールは1TeV程度にあるのが自然であると考えられています。

ブレーンワールド

超対称性以外の可能性としては、ブレーンワールドと呼ばれる多次元のNew Physicsシナリオが近年多く議論されています。典型的なシナリオでは、多次元重力のプランクスケールは実は1TeV程度の標準模型に近いスケールにあり、真空の不安定性問題が存在しないというシナリオです。多次元理論の幾何学的性質のために、プランクスケールは4次元としてはeffectiveに非常に大きな値に見えるという構造を持っています。いずれにせよ、標準模型の真空の不安定性に関連するNew Physicsは1TeV程度にあることが期待されているわけです。

その他の問題

標準模型は上で議論した問題以外にも難しい問題を含んでいます。たとえば、クォーク、レプトンの質量の階層性の問題が挙げられます。現在知られているフェルミオンの質量、フレーバー混合行列要素は、標準模型においてはすべて実験でしか決めることの出来ないパラメータであり、標準模型の枠内では何ら説明を与えられないものです。高いスケールにはNew Physicsが存在し、それによる明快な理解が行われるものと考えられています。

理論系グループで行われている研究

素粒子現象論は、上に挙げたようなNew Physicsについての理論的探索や、標準模型の構造をさらに詳細に研究する学問です。研究は常に実験と深く結びついており、現在実験で明らかにされている事実を手がかりに標準模型(スケール)の物理からさらに高いスケールでの物理を明らかにすることを目指しています。KEK理論系グループでは、スタッフからポスドクや学生を含めた全体として、超対称理論やブレーンワールドシナリオなどの素粒子模型からフレーバーの物理、摂動論的QCDや素粒子論的宇宙論にいたるまで、素粒子現象論の広い領域に渡る研究を行っています。

実験系グループとの連携

現在、Bファクトリーやニュートリノ実験などを通じてクォーク・レプトン双方のフレーバー構造が明らかになりつつあります。この方面に対しては、日本の素粒子実験はすばらしい業績を挙げています。特に、Bファクトリー、T2Kニュートリノ実験はKEKで行われている実験であり、KEK理論系グループはKEK実験系グループと密接な関係を保ちつつ研究を進めています。超対称性などのNew Physicsはフレーバーの物理の実験において間接的に検証される可能性が高いと考えられており、New Physicsの効果についての理論的研究が重要視されています。エネルギーフロンティアの物理としては、2007年から陽子ー陽子型大ハドロン加速器(LHC)が運転を開始する予定であり、ヒッグス粒子の発見、超対称模型、あるいは、ブレーンワールドシナリオなどNew Physicsの直接検証が大いに期待されています。また、現在多くの日本の研究者を含め、世界で電子ー陽電子型リニアコライダーの建設へ向けての計画が進められています。KEKにおいては、理論と実験の双方のグループが協力して、リニアコライダーにおけるヒッグスの物理、超対称性や、ブレーンワールドシナリオの検証の可能性についての研究を推進しています。また、将来のニュートリノ長基線実験に対する研究も進めています。

終わりに

素粒子現象論は、今後5-10年ほどのうちに目覚しく発展することが期待されており、KEK理論系グループでは、今後もさらに精力的な研究を進めていく予定です。


最終更新日:2010/02/18