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素粒子現象論

標準模型とNew Physicsの可能性

私達の世界にはルールがある。たぶん。少なくとも物理学者はそう信じています。そのルールは、ある時刻の状態をインプットすると、その後に何がどのような確率で起こるのか決めます。これを理論と呼びます。宇宙の始まりから現在まで、何かしらのルールに従って、歴史が決まり、ルールを知っていればこれからどうなるか予測可能であるはずです。このルールを探るのが素粒子論です。

たぶんですが、ルールはミクロなところで決まっているのでしょう。たとえば、電子のルールと陽子のルール、それから電磁気のルールを知れば水素原子についてのすべてを知ることができる。さらに、そのルールをもっと大きなものに適用していけば、そのうち宇宙のルールも決まるという。本当ですかね。でも素粒子論はその立場を取ります。つまり、すべての物質の基本的要素である素粒子についてのルールを知れば、宇宙のルールもわかるはずです。

さて、20世紀の物理学大発展!により素粒子のルールは結構わかってきています。2012年に発見されたヒッグス粒子により、いわゆる素粒子の標準模型が完成しました。標準模型というからには、他の理論を差し置いて、標準を勝ち取ったおめでたい理論です。

この理論、結構複雑です。ですが、とにかく理論です。つまり、完全な予言力を持っています。しかも、この理論は膨大な数の実験的チェックをパスした優秀なやつです。物理学者はとうとうルールを知ってしまったのか?いやいや、自然はそんなに簡単に人間に理解できるようにはなっていないようです。標準模型には、その内部に様々な謎を含み、また、宇宙の記述には残念ながらまだ至っていません。まあ、宇宙の記述を議論するところまできたっていうのは恐ろしくすごいことですけどね。

まあ、とにかく、物理学者は標準模型のその次、New Physics!を求めて終わらぬ旅をつづけています。

New Physics はどんなものか

空っぽの宇宙はなぜ終わったか

宇宙はビッグバンから始まった!といいますが、現在の理解では、インフレーションという宇宙のものすごい勢いの膨張期がまずあって、その後、エネルギーが開放されて素粒子が爆発的に生成されるビックバンがおこったというのが、様々な宇宙観測からわかってきました。とは言うものの、なぜそのようなインフレーションが起こったのかはよくわかりません。理論的にはインフラトンという仮想粒子がそれを引き起こしたとされていますが、その正体は全くの謎です。

でもまあ、インフレーションが起こったのは間違いなさそうなので、認めるとすると、これまた謎が現れます。インフレーションによって膨張してしまった宇宙は空っぽになってしまうのですが、その後、銀河や星を作る材料の陽子と中性子が必要です。空っぽな宇宙からなぜ、陽子と中性子が現れるのでしょうか?反陽子と反中性子も同じ数だけ現れそうですが、宇宙の歴史のどこかでそれらは消えてなくならなければいけません。この大事件は「バリオジェネシス」と呼ばれていまして粒子と反粒子を区別するCPの破れが必要です。

どのようにしてそれが起こったのかは謎で、素粒子標準模型では説明がつかないことが知られています。さらに、標準模型で説明できないのが現在の宇宙のエネルギーの20%程度を占める暗黒物質の存在です。未知の物質が宇宙をうようよ漂っているわけです。この正体に関する研究は素粒子論のホットトピックの一つです。

異常に小さいCPの破れ「strong CP問題」

物質は陽子と中性子でできているんですが、その陽子と中性子は素粒子ではなくて、もっと基本的なクォークとグルーオンで「できている」んです。「できている」の意味は難しいのですが、ざっくり言って、クォークやグルーオンで作った理論から出てくる粒子が陽子や中性子です。

さて、クォークの相互作用でCPが破れるというのが有名な小林=益川理論です。なんですが、実は小林=益川理論の他に、もう一つCPの破れを引き起こすものがあります。それは、グルーオンに絡んだ奇妙な相互作用で、グルーオン場が時空に巻き付くことによっておこる量子論特有のものです。この変な相互作用がCPを破るのですが、なぜかその破れが異常に小さいことが知られています。これが「strong CP問題」と呼ばれていて、標準模型の謎の一つです。

中性子や陽子に磁場をかけるとスピンが揃うのは当たり前ですが、電場をかけてスピンが揃ったとするとこれはCPの破れとなります。これを電気双極子モーメントと呼びまして、実験ではまだ見つかっていません。グルーオンの変な相互作用の予言は、現在の実験的制限の20桁程度上です。とても変ですね。

この問題の背景にもやはり素粒子の謎、宇宙の謎の鍵となるNew physics!が存在するといわれており、盛んに研究されています。とくに、strong CP を打ち消す効果を発揮するスカラー粒子「アクシオン」は、暗黒物質の有力候補の一つです。

レプトンやクォークの謎

身の回りにある物質は、ほとんど陽子や中性子をつくるアップクォークやダウンクォークと、さらに電子やニュートリノとよばれるレプトンから「できて」います。素粒子の標準模型には、なぜか、これらと質量以外はまったく同じ性質をもつクォークやレプトンがさらに2組現れます。このくり返し構造を「世代」構造といいます。なぜ世代が3つもあるのでしょうか。世代の違う粒子は最初の世代に比べて桁違いに重いのですが、なぜこんなにも差があるのでしょうか。この問題の背景にもNew physics!が存在するといわれており、たくさんの研究者がその起源を解き明かすことを目指して研究を進めています。もしかしたら、まだ知らない新しい対称性が素粒子にはあるのかもしれません。

ニュートリノには、わかっていないことがたくさんあります。KEKや世界の実験施設では、ニュートリノをとても大きな検出器で捕まえて、その性質を調べてきました。その結果、ニュートリノには、とても小さな質量があることがわかりました。これは、素粒子の標準模型の予想を裏切るものでした。なぜニュートリノには質量があるのでしょうか。New physics!が答えを知っているはずです。さらに、ニュートリノに質量があることで、私たちの知らない、CPの新しい破れを見つけることができるかもしれません。もしかしたら、宇宙のバリオジェネシスの謎を解く手がかりが得られるのではないかと期待されています。

空間は本当に3次元なのか

私たちの住んでいる空間は縦横高さの3次元に広がっています。でもこれって本当でしょうか。実はこの事実は実験では数十マイクロメートル程度の精度でしか確認できていません。つまり、それ以下のスケールでは空間がより大きな次元に広がっている可能性があるのです!実は量子重力を含む究極理論と期待されている超弦理論では空間は9次元と予言されています。もしこれが本当なら「余分な」6次元は現在の実験では検出できないくらいに小さく丸まっているということになります。

この世界には様々な素粒子がありますが、違う種類の素粒子が異なる次元を感じる可能性があることが理論的に分かっています。ということは、素粒子が活躍するミクロの世界では例えば重力は9次元空間を伝わるけど、クォークやレプトンは9次元空間中に浮かぶ膜のようなもの(ブレーンと呼ばれています)の表面しか動けないなんてことになっているかもしれません。このような考え方はブレーンワールドと呼ばれています。

もし「余分な」次元が本当にあるとしたら、過去の宇宙の歴史や素粒子間に働く力はどのように変更されるのでしょうか。実際に「余分な」次元を実験で検出するには何を測ればよいのでしょうか。興味は尽きません。

真空の不安定性

箱の中から空気を抜いたらいわゆる真空になります。ですが、まだ温度に応じて光がいます。輻射ですね。極限まで温度を下げると、とうとう何もなくなります。このようにして、エネルギーの最小値を取る状態を「真空」と呼びます。エネルギーが最小なので、このような状態は安定です

ところが、素粒子標準模型において、最低のエネルギーの状態を考えてみると、ヒッグス場の期待値が我々の知っている値よりもずっと大きい値のときにエネルギーが最低となってしまう可能性があります。すなわち、我々の宇宙の「真空」は本当の「真空」ではなくて、そのうち崩壊してしまう不安定なものであるかもしれないのです。

本当にそうであるかどうかは、ヒッグス粒子の質量とトップクォークの質量の詳細な値によるのですが、現在の測定値の中心値が本当だとすると、我々の宇宙はなんと、不安定だというのです。恐ろしいですね。もちろん、標準模型がNew Physics!によって変更を受ける可能性もありますので、本当のところはまだまだわかりませんが、「真空」は安定なのか。非常に面白い問題です。

理論と実験をつなぐアプローチ

実験との連携

素粒子の理解にとって実験と理論はどちらも必要です。理論的にすばらしい思いつきであっても、実験的に否定されることもあります。実験的に否定されたアイディアであっても、本当に重要なものは、異なる理論のなかにその本質が引き継がれて残っていきます。ある理論的なアイディアがあった時に、どのようにすればそれを実験的に確かめられるか考え、今ある実験で確かめることができなければ、どんな実験ならその理論を確かめることができるか考えます。こういう新しい実験の提案は、次の実験を提案するための足がかりとなっていきます。

高エネルギー加速器研究機構ではいくつかの面白い実験が進展中です。KEKにおいて2018年にスタートしたBelle II実験では、約500億個ものB中間子とその反粒子をつくり、その様子を詳しく調べることで、新しい素粒子や物理法則の発見を目指しています。T2K実験では、KEK東海キャンパスにあるJ-PARC加速器で世界最大強度のニュートリノビームをつくり、それを約300km離れたスーパーカミオカンデに打ち込んでいます。そこでは現在、反ニュートリノの振動の様子を観測することで、CPの新しい破れを見つけようとしています。さらに、J-PARC加速器でつくられた大量のミューオンを使い、新しい物理法則を発見したりすることも期待されています。KEK理論センターは、KEK実験グループと密接な関係を保ちながら研究を進めています。New Physics!は、これらの実験において、標準模型では説明することのできない事象として発見されると考えられていて、その効果についての理論的研究は重要です。

また、KEK では多くの国際協力を行っています。陽子ビームを世界最高のエネルギーまで加速して正面衝突させることによって、これまでにない素粒子反応を起こす実験がスイスとフランスとの国境地帯にあるCERN研究所で行われています。日本はその中でもATLAS検出器を用いた実験を中心に参加しています。KEK理論センターはNew Physics!から期待される新しい素粒子の発見に興味をもって研究を進めています。

また、現在世界の研究者によって、電子−陽電子型リニアコライダーの建設へ向けた検討が進められています。KEKにおいては、理論と実験の双方の専門家が協力して、リニアコライダーにおけるヒッグスの物理やNew Physics!の検証の可能性についての研究も推進しています。

このような研究は、若い世代のアイディアを常に必要としています。素粒子の謎の解明に興味がある方は、ぜひ一度KEK理論センターを訪問してみてください。


最終更新日:2018/08/17