HOME > 理論グループ > 教官プロフィール > ハドロン原子核理論スタッフ

ハドロン原子核理論スタッフ

熊野 俊三 

 

n-spin

ハドロンの内部構造を研究することは量子色力学(QCD)の検証のみならず、現在の理論の枠組みを超える新しい物理現象の追求のための重要な課題です。これまで摂動論的QCDは理論的に研究され、幾多の高エネルギー実験で検証されていますが、QCDの非摂動論的側面は確立していません。例えば、核子のスピンは基本的物理量の一つであるにも関わらず、その起源は解明されていません。単純なクォーク模型によれば、図1の一番左の図の様に、核子のスピンはクォークのスピンによって担われているはずですが、偏極レプトン・核子散乱実験の解析によって、その割合は非常に小さい(20-30%)ことが判明しています。2014年、グルーオンスピンの寄与が比較的大きいことが分かる進展がありましたが(Scientific American, July 21, 2014)、クォークとグルーオンのスピンが核子スピンを担っている割合は50%に至らず、パートンの軌道角運動量の効果が大きな役割を果たすと考えられます。軌道角運動量については、形状因子とパートン分布関数の要素を内包する一般化パートン分布(GPD)を用いて特定できることが理論的に示されていますが、その実験的な検証には至っていません。

wigner 本研究室では、クォーク・グルーオンが担うスピンの割合を理論的に解明すること、またエキゾチックハドロンの内部構造の解明を目指してGPDに関する研究を行っています。GPDは縦方向と横方向の3次元の内部構造の情報を有しているため、この研究分野は一般的にハドロン・トモグラフィーと呼ばれています。量子的密度分布は、位相空間における位置座標と運動量の関数であるWigner分布で研究することができます。図2に示す様に、これまではWigner分布をパートンの横方向運動量k_⊥と空間座標で積分した縦方向運動量の割合xのみに依存するパートン分布関数(PDF)や、xとk_⊥で積分しFourier変換した形状因子が研究されてきました。しかし、核子のスピン構造には軌道角運動量、つまり横方向運動量依存性の理解が不可欠であり、LHCの様な高エネルギー陽子反応におけるハドロンやジェット生成断面積の横運動量依存性の記述に横方向運動量に依存する分布、つまりハドロン3次元構造の解明が必要となり、最近研究が重点的に行われる様になりました。Wigner分布は6つの変数の関数であるため、これを最初に直接研究することは現実性がありません。従って、3次元構造の解明を目指して、図2に示す一般化パートン分布GPD (Generalized Parton Distribution)の過程においてMandelstam変数sとtを交叉させて得られる一般化分布振幅GDA(Generalized Distribution Amplitude)、および横方向運動量依存分布関数TMD(Transverse Momentum Dependent parton distribution)が研究されています。本研究では、核子のGPDやTMDを摂動論的QCDの手法を用いて、またハドロン模型を用いて研究することにより、核子スピン起源と3次元構造の解明研究を行っています。

個人のホームページはこちら

森松 治

これまで実験で見つかっているほとんどのハドロンは、1つのクォークと1つの反クォークからなるメソン、または3つのクォークからなるバリオンとして理解することができます。ところが、最近、このような簡単なクォーク模型では理解することが困難なハドロンがいくつも見つかっています。これらのハドロンはエキゾチックなハドロンと呼ばれ、実験的及び理論的な研究が盛んに行われています。我々は、いくつかのエキゾチックハドロンが、2つのハドロンと3つのハドロンに崩壊し、それぞれの崩壊において、ハドロンの質量の和がエキゾチックハドロンの質量にほぼ縮退していることに注目し、2体と3体のハドロンのチャンネル結合の観点から解析を行っています。
宇宙初期や中性子星の内部あるいは原子核衝突実験においては、高温や高密度のハドロン物質が作られていると考えられています。このような高温や高密度のハドロン物質やハドロン物質中におけるハドロンの性質は、通常の真空や真空中におけるハドロンの性質とは大きく異なり、豊かな物理を含んでいることが認識されてきています。また、実際の原子核反応で作られる状態は平衡状態ではなく、非平衡状態であり、そのような非平衡状態が平衡状態へ緩和する過程を理解することも重要な課題です。我々は、これらの平衡及び非平衡におけるハドロン物質の研究を行っています。

板倉 数記

極限的な状況におけるハドロン物理に興味を持っています。例えば、非常に高いエネルギーでの陽子の散乱では、陽子が3つのクォークからなるという常識が通用しなくなってしまいます。どうなるかというと、グルーオンという、クォークとクォークを結び付けている糊の役割をしている粒子がたくさん生成されて、そのグルーオンの塊のように見えるのです。従って、通常の陽子では理解できないような現象がいくつも出てきます。そういったことの理論的研究を行っています。また、密度をどんどんと大きくしていくと、陽子などに束縛されているクォークやグルーオンが解放されると考えられており、さらに、温度が低ければクォークが一種の超伝導を起こすと予想されています。この時に起こる様々な現象にも興味を持っています。このように通常の我々の世界ではなかなか存在しないような状況を考えることの重要な利点は、極限的な状況下ではクォークとグルーオンの相互作用が弱くなるという「漸近的自由性」があるために、かなり解析的に理解できるという点です。また、これらの極限的な状況は、単なるアカデミックな問題ではなく、最近では超高エネルギー散乱実験や、超相対論的重イオン衝突実験などで重要な視点であると考えられています。このような研究によって、我々のハドロンに対する理解や概念は、確実に広く、深くなっています。

個人のホームページはこちら

土手 昭伸

 原子核は陽子・中性子といった核子から成り立っています。この核子(N)はクォークレベルで見れば、アップクォーク(u)、ダウンクォーク(d)で作られています。そこにu, dの次に重いストレンジネスクォーク(s)を持ち込むことで、強い相互作用をする粒子の集まりである原子核を、より広く一般的に理解しようとするのがストレンジネス核物理です。
 ストレンジネスクォークを含む核子の仲間をハイペロンと言いますが、ハイペロンと核子との間には核子間とは違った性質の相互作用が現れます。特にΛとΣという二種類のハイペロンの質量差が小さいために、ΛNとΣNの間で粒子転換が原子核中で生じます。ハイペロンΛが瞬間的に別のハイペロンΣに転化することで引力を稼ぎます。このようにストレンジネスをもつ原子核では、我々の周りにある原子核では顕著ではない独自の束縛機構があり、有限量子多体系として興味深い研究対象です。
 ストレンジネスは、遥か彼方宇宙に存在している中性子星においても重要な役割を果たします。その大きな質量による巨大な重力によって、中性子星内部は高密度状態になっています。そのような高密度下では、フェルミ粒子である核子はハイペロンという別の粒子に転化し、フェルミ面を下げることでエネルギーを稼ぐと考えるのが自然です。中性子星内部ではストレンジネスクォークが発現していると考えられます。近年、太陽の2倍の質量を持つ中性子星が正確に観測されました。その発見とと供にストレンジネス核物理の重要性も増しています。単純に考えるとストレンジネスが発現することで自由度が増え、核物質の状態方程式が軟化します。ストレンジネスの発現と観測された2倍の太陽質量を持つ中性子星の存在が無矛盾に説明できるのか、大変話題となっております。
 ストレンジネスクォークをもつ中間子に反K中間子(K-, K0bar)があります。この反K中間子と核子との間には、とりわけ強い引力が働くことが知られております。ある理論研究では、反K中間子を原子核中に入れると、その周りに核子が引き寄せられ原子核内部に高密度状態が形成される可能性が示唆されています。あたかも反K中間子が引力の種のように振る舞い、普通の原子核の数倍に達する高密度状態(これは中性子星内部に匹敵!)が出来るのかもしれません。反K中間子が束縛した原子核(K中間子原子核)が、本当に高密度状態を形成するのか?またそのような状態が安定に存在するのか?ということはストレンジネス核物理のホットな話題の一つです。K中間子原子核は高密度状態への入り口(doorway to dense matter)なのかもしれません。そうであれば、K中間子原子核から、ハドロン物理において重要なテーマ「高密度下でのカイラル対称性の部分的回復」について情報を得ることが出来ると期待されます。現在、K中間子原子核の中で最も基本的とも言える”K-pp”(K-中間子と2つの陽子からなる系)が、理論・実験両面から精力的に調べられています。
 更には近年、ストレンジネスの次に重いチャームクォークを含むハドロン原子核の研究が進展しつつあります。チャームクォークは、アップ、ダウン、ストレンジネスに比べ遥かに重いクォークです。軽いクォークで重要であったカイラル対称性に代わり、チャームクォークでは別の対称性(Heavy quark symmetry)が支配すると考えられます。そこではこれまでとは違った現象が現れるのかもしれません。チャームセクターを研究することで、ハドロン物理に対するより深い理解が進むと期待されます。
 KEKと日本原子力研究開発機構(JAEA)が共同で運営してる大強度陽子加速器施設(J-PARC)では、現在こういったストレンジネス核物理に関する実験が盛んに行われています。また将来的にはチャームの物理も展開される予定です。J-PARCという優れた実験施設が近くにあることは、我々にとって大きなメリットです。実験グループとも協力して、ストレンジネスそしてチャームのハドロン原子核物理の研究を進めています。


最終更新日:2015/04/14